4月21日22日に開催された2018スプリング医ゼミの1日目に参加してまいりました。
今回は、やさしい日本語ツーリズム研究会の吉開さんのお声がけがあって参加することができました。
私はやさしい日本語ワークショップのサポーターとして医学生の皆さんの取り組みを間近で見させていただきました。
医学生を含んだ医療関係学生が200名規模で「やさしい日本語」を学ぶのはおそらく最初の事例になります。ここから大きく広がってほしいと思います。
私自身、やさしい日本語を学ぶ中で、医療の世界にやさしい日本語が入る隙間ってあるのだろうかと疑問に思ってきました。
なぜかというと、やさしい日本語は万能な言葉ではないからです。
強いところもあれば、弱いところもあるんです。
その弱さの一つである、情報の優先度の高いものを伝えるというところは医療の世界ではリスクになります。やさしい日本語はわかりやすい言葉であると同時に、優先度の低い情報ではなく優先度の高い情報を優先的に選び伝えるということもしますから、伝えたいことが100個あったとして、100個理解してもらうのではなく本当に必要な30個の情報をわかりやすく説明します。70個は抜け落ちるリスクがあります。
この情報の取捨選択が医療など命に関わる現場では、リスクが高いから受け入れてもらえないんじゃないかって思っていた私だったので、吉開さんからこのお話をいただいた時、すごく驚きました。
そして、医療に携わる若者のみなさんが今やさしい日本語を学んでくださること、本当に嬉しく思いました。
講演会でお話も伺うことができました。
お話をしてくださったのは順天堂大学医学部教育研究室・教授武田裕子先生。
講演のタイトルは
「すべての人が健康に生きられる社会 健康格差の社会的要因(SDH)とは」
でした。
私はこの日初めてSDHという言葉を聞きました。(学生の皆さんの多くはご存知でした!)
SDH=Social Determinants of Health 健康の社会的決定要因
ということなんですが、なんのことかわからない方もいらっしゃると思いますので、少し例を交えて説明したいと思います。
私なりの説明で恐縮ですが・・・、
健康な状態を保てること、病気になってしまう原因は大きく分けて2つあります。
- 生物学的要因・・・年齢、性別、遺伝子
- 社会的要因・・・生活習慣、収入、教育、医療体制、労働環境、平和、社会経済状況、文化、環境など様々なこと
例として収入と子供の肥満の相関図を見せてもらったのですが、
子供が小さな頃は収入と肥満の関係性はあまり強くないのですが、子供の年齢が上がるとともに収入の低い家庭ほど子供は肥満になりやすいというものでした。
他にもタバコと収入の関連性についても資料を見ました。収入が上がれば上がるほど、こどもの非喫煙率が高いというものでした。
私はこれらの資料を見たときに、自分を取り巻く環境が私の健康を左右することもあるのだと改めて気付くことができました。
武田先生も繰り返しお話されていたのですが、
「生活習慣や収入によって健康が左右されるのかもしれないけど、それってその人の問題じゃないの?医者が介入する問題ではない」
そう思う人もいるでしょうと。
私が見てきたお医者さんは生活習慣にまで踏み込んで来る人はいませんでしたし、踏み込むイメージはありませんでした。
だから、そう思うのって自然なことというか、そこまで面倒見きれないと思うのは珍しくないだろうと思いました。
武田先生のお話は続きます。
ちょっとお話はうろ覚えなのですが、こんなお話をされていました。
イギリスで留学生が自転車と車両との事故で亡くなりました。
治療に当たった救急医が
「もうこんな悲しい出来事はごめんだ。事故が起こらないように環境を整備してくれ」
という主張を新聞に載せました。
私にはすごく新鮮に聞こえました。
医者の仕事って、治療をすることだと思っていたからです。
医者が自転車事故をなくすために環境整備を訴えるというのは、意外な行動に思えました。
そして、すごくいい提案だと思ったのです。
事故を起こさないように道路整備、環境整備をする。
道路・環境整備で事故が減る。
救急医が悲しむことが減る。
他の患者さんの治療に専念できる。
健康の社会的決定要因を解決していくことは、全ての人にとってメリットがあるのではないでしょうか?
私は医療者ではないので、もっぱら患者として医者と関わることが多いのですが、(子供達がアレルギーを持っているので大病院に通院しているんです)
社会的決定要因にまで目を向けている先生は、とてもお忙しそうなので、正直まだ多くはないと感じます。
私はSDHを解消するための知識もまた飲むお薬と同じように私たち患者に作用するような気がしています。
医療者のみなさんがSDHを解消するための知識や社会的な支援に関する知識をもつことで、患者さんに早期に必要な支援を提案することで、より早く病気を治すことに繋がるかもしれないと感じるからです。
H28年度に改定された医学教育モデル・コア・カリキュラムの中に、SDHを概説できるという学修目標が盛り込まれたそうです。
これからの医療者の姿としてSDHを考慮することが必要だということですよね。
この日SDHの存在を初めて知ったど素人の私でもSDHってとても大切な要素だなと感じました。
武田先生のお話の中でピックアップされていたお話の一つに、海外にルーツを持つ子供達の支援をしている団体の活動についてお話がありました。
- 言葉がわからず不安を抱えたまま生活している
- 相談できる人が限られている状況
- 経済的な困難
といった社会的支援の不足が要因となって望ましくない健康状態や生活習慣になってしまう。
そして、健康格差が生まれる。
医療現場での「やさしい日本語」の普及はSDHへの働きかけになる。
私が思うに海外にルーツをもつ子供達もそのご家族も言葉の壁を感じて生活しています。
医療機関での多言語対応はまだまだ十分とは言えません。外国人の皆さんは医師が説明する日本語を聞いて理解しようとしていると思いますが、どれくらいの人が医師の日本語を聞いて理解できているでしょうか?
医師の言葉は、専門用語のオンパレードです。
尿検査、血液検査、頭痛、腹痛・・・全て難しい言葉です。
腹痛という症状を訴える言葉ですら彼らにとっては理解が難しい場合があります。
病院で説明をされても理解ができず医療機関にいくことすらできてない人がいるかもしれません。
医療機関にいくたびに日本語がわからなくて、何をされるのかがわからず不安でたまらない人がいるかもしれません。
定住外国人のうち62.6%が日本語を理解できると答えているのです。
「やさしい日本語」があれば、62.6%の人とコミュニケーションがとれ、上にあげたような不安を抱えている外国人の患者さんに安心を提供し、病院に来ていただくことが、治療を受けてもらうことができるかもしれません。
言葉が話せない、理解できないことがSDHになって、適切な治療を受けられない人を減らすことが「やさしい日本語」にはできるかもしれないということなのかなと聞いていて思いました。
長くなってまいりましたので、参加レポ②に続きます。