ここまでやさしい日本語の書き換え練習までした学生の皆さん。
いよいよ患者役の外国人留学生を交えてロールプレイをします。
実習中の診療所で医師が外国人の患者さんにこのように説明をしました。
「湿布と鎮痛薬を処方します。鎮痛薬は毎食後1日3回内服してください。座薬も出しますので、痛みがひどい時には使用してください。
「痛みと腫れがなくなったら、鎮痛薬は中止していただいて結構です。鎮痛薬で胃が荒れる方もいるのですが、胃薬は必要ですか?」
しかし、患者さんは今ひとつわかっていない様子です。
そのため医師から「患者さんにもう一度分かりやすく説明しておいてもらえる?」と依頼されたという状況です。
目の前の患者さんに理解してもらえるように、説明して見ましょう!!
というロールプレイをしていきます。
なかなか難しそうな雰囲気です。(実際難しいです)
留学生に対する説明の中で、学生のみなさんは様々なアプローチを見せてくれました。
- ゆっくり言う
- 短く話す
- 分かりますか?と確認する
- イラストを描く
- ジェスチャーを使う
- 漢字を書いて見せる(筆談)
- 患者さんがわかっていない表情だったら言い換える
- 英語に訳した後日本語に変換する
も〜〜〜〜〜〜!控えめに言ってすごく素晴らしかったです。
どのやり方も全て目の前の患者さんに伝えるためにしたことです。
相手にわかってもらうためにしたこと。
初めてチャレンジしたとは思えないほどのたくさんの工夫を見せてくれました。
医学生のみなさんはきっとこの日初めてやさしい日本語に出会ったのではないかと思います。
きっと患者ごとに同じ言葉で説明しても理解度が違うことも体感できたでしょうし、
一人一人理解するまでに使ったストラテジーが違うことも体感できたのではないでしょうか?
これって、外国人日本人などの国籍を問わず、どの患者さんでも一緒だと思いませんか?
一人一人どの説明で理解できるかは違います。
きっとこの体験が医学生のみなさんが実際患者さんの治療に当たる時に生きてくるのではないかと思います。
ロールプレイの模範解答を載せます。
やさしくする前の日本語
「湿布と鎮痛薬を処方します。鎮痛薬は毎食後1日3回内服してください。座薬も出しますので、痛みがひどい時には使用してください。」
やさしい日本語
「薬を3つ出します。1つは飲みます。痛みが小さくなります。1日3回ご飯の後に飲んでください。1つは貼ります。痛いところに貼ってください。1つはお尻から入れます。痛みがひどい時は使ってください。」
やさしくする前の日本語
「痛みと腫れがなくなったら、鎮痛薬は中止していただいて結構です。鎮痛薬で胃が荒れる方もいるのですが、胃薬は必要ですか?」
やさしい日本語
「足が痛くなくなったら、飲むのをやめます。もう薬は飲まないでください。薬を飲むと胃(指で指し示す)が痛くなるかもしれません。胃の薬も欲しいですか?」
どうでしたか?
この解答例は、やさしい日本語を第一線で研究されている聖心女子大学の岩田一成先生によって作られました。
さすがやさしい日本語のプロ、とても分かりやすい表現ですよね!
総括として岩田先生はこんなお話をしてくださいました。
ポイントは3つあります。
- 話の概要を話す(例:薬は3つ出します。)
- ビジュアルを活用する(例:実物を見せる。写真やイラストを使う)
- 考えてから話す(例:どう言えばやさしくなるのか考えてから話す)
先生のお話もとても聴きやすく分かりやすかったです。
これは私が先ほど即席で作成したものです。
このようなイラストをあらかじめ準備しておくとよりスムーズに伝えられるようになると思います。
知人にスプリング医ゼミの話をしたところ、ちょうど外国人観光客が救急を受診し、言葉が通じないことを理由にその地域の病院をたらい回しにされたということがあったんだよと教えてもらいました。
命がかかっている状況かもしれないのに、たらい回しにされた外国人観光客の不安はいかばかりだったでしょう・・・。
きっとすごく不安だったに違いありません。
言葉が通じないことを理由に・・・これはまさにSDHの問題ですよね。
社会的に、言語的に受け入れる基盤がない、環境がないから治療を受けるまで時間がかかっていますもんね。
話を聞く限り、英語も日本語も通じない人だったようですので、専門の通訳がいるところでないと対応が難しい案件だったのだと思いますが、
もし、その方が日本語を少しでも話せる人だったら・・・
医療者がやさしい日本語という外国人とのコミュニケーションストラテジーを持っていたら・・
状況は変わったかもしれません。
私の身近な人に医療者が数人おりますので、医療訴訟の問題や未払いの問題など、外国人の患者さんを受け入れるリスクがあるから難しいんだよねという話を聞くこともあります。
私個人の意見としては、医療など命に関わることの多い現場では、多言語対応をするのがベストだと思います。しかし、現状来日する外国人観光客や定住外国人の母語全てに対応することは不可能に近いです。
今、困っている人を助けることも考えていかなければいけないと思います。
日本語でもコミュニケーションがとれる外国人がいるということを知っているだけで、その外国人患者の治療をより早い段階で始められる可能性があると思います。
そして、日本語が話せる外国人の患者さんは、お医者さんの言葉が理解できるという安心感をやさしい日本語を使うことで感じてもらえるのではないかとも思うのです。
誰でも何を言っているのか全くわからないまま治療を受けるより、少しでも分かる言葉で説明を受けた方が安心すると思いませんか?
救急は命に関わる患者さんもくる場所なので、言語だけでなく様々な要素で受け入れが難しい時もあると思いますが、言葉の問題だけでたらい回しにされる人が1人でも減ればいいなとと友人の話を聞いて感じました。
やさしい日本語はコミュニケーションツールの一つです。
目の前の患者さんに伝えるための道具の1つです。
外国人の患者さんが安心して治療を受けられるように、医療者のみなさんにもできることがあります。
それは、英語でのコミュニケーションかもしれませんし、やさしい日本語かもしれませんし、グーグル翻訳かもしれません。
岩田先生もワークショップの総括でお話されていたように、伝えるための手段は言語だけとは限りません。
イラスト、動画、写真、実物など色々な方法で伝えることができます。
例えば、このような痛みを測るためのフェイススケールも診察の際に役立つかもしれませんね!
慶應義塾大学病院 緩和ケアセンターHPより抜粋
今回のスプリング医ゼミでの経験が、将来医療者となった時に少しでも役に立ったらいいなぁと思います。
彼らが医療者として活躍する頃、日本は今より多くの外国人が住んでいる国になっているでしょう。その分、医療者として外国人の患者さんと接する機会も治療する機会もきっと増えるでしょうから、その時、今日感じたことをいかしてもらえたら本当に嬉しいです。
何よりきっと外国人の患者さんが嬉しいと思います。
先生は、私にわかるように話してくれる。安心するな。
って安心して、目の前の医療者を信じてくれると思います。
本当に素晴らしい経験をさせていただきました。
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
2018スプリング医ゼミ参加レポを完結したします!